神戸市室内合奏団 定期演奏会(第142回定期公演) ヴィーン古典派からの視座 |
歌詞のないオペラ ー協奏曲と交響曲、奏でられるドラマー
音楽家がみな王侯貴族の庇護のもとに生きた18世紀、ザルツブルクの抑圧から逃れ、史上初のフリーの音楽家としてヴィーンで生きることを試みたモーツァルトの反骨精神は、例えば「フィガロの結婚」などに大いに反映されるところとなるが、旧体制が抑え込もうとしていた革命的な独立精神のドラマは、モーツァルトの最後の交響曲にも見て取ることが出来るのではないだろうか。
時には五か国語を駆使して書かれた彼の手紙のように、いくつものキャラクターがテキストのないオペラのように登場し、生き生きとそのドラマを展開してゆく中で、織り成される対比と緊張、親和の妙は見事で、人生のあらゆる局面で遭遇する悲哀や喜び、ありとあらゆる感情を、音楽の対話を通してこうも見事に描いて見せた音楽家はほかにはいない。ジュピター交響曲終楽章のフーガにおいても、各声部が独立して対等に自由に進んでゆく。対位法を研究し尽くし、それを古い様式の枠を超えて独自のものに確立したこの記念碑的な交響曲の先に、この不世出の天才は何を見ていたのだろうか。
ドラマと言えば協奏曲も、独奏者たる主人公と状況を描写するオーケストラが物語を進行させる音楽劇ととらえることも出来よう。とりわけ、雄弁な独奏楽器が生き生きと語るモーツァルトのヴァイオリン協奏曲においては。 協奏曲ト長調K.216が「シュトラスブルク」と呼ばれるのは、当時歌われていたという『シュトラスブルガー』という曲の陽気な旋律が終楽章に使われていることからくるもので、モーツァルト父子の書簡の中でもこの名で呼ばれている。
短い楽句の中で絶え間なく入れ替わる対照的な要素 ―― 緊張と緩和、喜びと憂愁、生真面目と冗談などその他あらゆるコントラストをなすもの ―― が巧みな話術として聴き手を魅了するところがモーツァルトの音楽の特徴のひとつで、絶妙に配された音価や休符、レガートやスタッカートなど、「語り」を際立たせる技巧の洗練の極みを味わえるのが彼のヴァイオリン協奏曲の魅力と言えよう。
ヴィーン古典派の三大家を追い続けたシューベルトが1816年秋に書いた交響曲第5番は、彼が好んだこれら大家たちの様式を範としながら、既に彼の音楽の最大の特色である「歌」を獲得している。加えて、モーツァルトの交響曲第40番のメヌエット楽章を手本にしたといわれる第3楽章や終楽章のドラマティックな楽想などは、後年の大交響曲の誕生を暗示する。
過去3度の客演で鮮やかな印象を残したリューディガー・ボーンと、ヴァイオリン独奏には郷古廉を迎え、彼らふたりがモーツァルトとシューベルトの「ドラマ性」と「歌謡性」の多彩さを、合奏団とどう描き出すのか、期待が高まる演奏会である。
F.シューベルト/Franz Peter Schubert
交響曲 第5番 変ロ長調 D.485
Symphonie Nr.5 B-Dur, D.485
W.A.モーツァルト/Wolfgang Amadeus Mozart
ヴァイオリン協奏曲 第3番 ト長調「シュトラスブルク」KV216
Konzerto Nr.3 G-Dur für Violine und Orchester, KV216
交響曲第41番ハ長調「ジュピター」KV551
Sinfonie Nr.41 in C-Dur “Jupiter”,KV551
リューディガー・ボーン ~Rüdiger Bohn ~
ドイツ、リューベック生まれ。ピアノと指揮をケルン音楽大学とデュッセルドルフのロベルト・シューマン音楽大学で学ぶ。ピアニストとしてはフィレンツェとボルドーのコンクールの他、数々の室内楽コンクールで優勝。ピアニストとしての活動を行う。その後、レナード・バーンスタイン、セルジュ・チェリビダッケ、ジョン・エリオット・ガーディナーのマスタークラスを受けた後、指揮に専念する。
ブリュッセルのモネ劇場にて音楽監督助手を務め、バーゼルとリューベックの歌劇場の首席指揮者となる。また、ナンシー歌劇場、ダルムシュタット国立劇場、ボローニャのテアトロ・コミュンナーレ、RAI管弦楽団、 スイス・ロマンド管弦楽団、ローザンヌ室内管弦楽団などの客演指揮を行う。特に新しい音楽に関わりが深く、オーストリアの現代音楽アンサンブル「クラングフォルム・ウィーン」と「ワルシャワの秋」や「ザルツブルク音楽祭」に出演。また自身が創設した現代オペラ・ベルリンの音楽監督も務め、ヘンツェ、カーゲル、バティステッリ、フェルドマン、ライマン、ヘルスキー、シャリーノ、マクスウェル・デイヴィス、リームらによるオペラを現代オペラ・ベルリンにて上演している。その他、ミュンヘン・ビエンナーレとの共同制作でチュー・シャオソン(QuXiao-song)によるミュージックシアター作品、ベルリン・ コーミッシュ・オペラとの共同制作でツェンダーのオペラ「ドンキホーテ」を上演した。これまで韓国交響楽団、ソウルフィルハーモニック管弦楽団、ドイツ=ポーランド現代音楽アンサンブル、アンサンブルTIMFも客演指揮。2005年よりデュッセルドルフのロベルト・シューマン音楽大学指揮科主任教授。
郷古 廉 ~Sunao Goko ~
2013年8月ティボール・ヴァルガシオン国際ヴァイオリン・コンクール優勝ならびに聴衆賞・現代曲賞を受賞。現在、国内外で最も注目されている若手ヴァイオリニストのひとりである。1993年生まれ。宮城県多賀城市出身。
2006年第11回ユーディ・メニューイン青少年国際ヴァイオリンコンクールジュニア部門第1位(史上最年少優勝)。ガラコンサートにおいて服部譲二指揮/フランス国立リール管弦楽団と共演。同年、初リサイタルを開く。
2007年12月のデビュー以来、新日本フィル、読売日響、 東響、東京フィル、日本フィル、大阪フィル、名古屋フィル、仙台フィル、札響、アンサンブル金沢等を含む各地のオーケストラと共演。共演指揮者にはゲルハルト・ボッセ、秋山和慶、井上道義、尾高忠明、小泉和裕、上岡敏之、下野竜也、山田和樹、川瀬賢太郎各氏などがいる。国内各所でリサイタルを行うと共に、2011年、2012年、2014年と《サイトウ・キネン・フェスティバル松本》でストラヴィンスキー作曲「兵士の物語」に出演。《東京・春・音楽祭》、《ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン》にも招かれている。
現在、ウィーン私立音楽大学にて研鑽を積みながら、ヨーロッパにおいても徐々に演奏機会を増やしており、ドイツ、フランス、スペイン、スイス、イタリア、チェコなどを訪れている。これまでに勅使河原真実、ゲルハルト・ボッセ、辰巳明子、パヴェル・ヴェルニコフの各氏に師事。国内外の音楽祭でジャン・ジャック・カントロフ、アナ・チュマチェンコの各氏のマスタークラスを受ける。2014年1月にオクタヴィア・レコードより無伴奏作品によるデビューCDをリリース、2015年にはnascorレーベ
ルよりブラームスのヴァイオリンソナタ集がリリースされた。使用楽器は1682年製アントニオ・ストラディヴァリ(Banat)。個人の所有者の厚意により貸与される。
神戸市室内合奏団 ~Kobe City Chamber Orchestra ~
1981年、神戸市により設立。実力派の弦楽器奏者たちによって組織され、神戸、大阪、東京、札幌などを中心に、質の高いアンサンブル活動を展開、また管楽器群を加えた室内管弦楽団としての活動も活発で、バロックから近現代までの幅広いレパートリーのほか、埋もれた興味深い作品も意欲的に取り上げてきた。また、定期演奏会以外にもクラシック音楽普及のための様々な公演活動を精力的に行っている。
1998年、巨匠故ゲルハルト・ボッセを音楽監督に迎えてからの14年間で、演奏能力並びに芸術的水準は飛躍的な発展を遂げ、 日本を代表する室内合奏団へと成長した。毎年のシーズンプログラムは充実した内容の魅 力あふれる選曲で各方面からの注目を集め、説得力ある演奏は高い評価を受けている。また、2011年9月にはドイツのヴェストファーレンクラシックスからの招聘を受けてドイツ公演を行い、大成功を収めている。
2013年度からは、日本のアンサンブル界を牽引する岡山潔が音楽監督に就任し、ボッセ前音楽監督の高い理念を引き継ぎ、合奏団のさらなる音楽的発展を目指して、新たな活動を展開している。
神戸文化ホール プレイガイド TEL 078-351-3349
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