理事長のつぶやき | 公益財団法人 神戸市民文化振興財団

2022/6/29(水)

 神戸文化ホールって、どんなホール? 

ステージや座席数など形式や広さ、音楽向き、演劇向きといった機能ではなく、広く市民にどう受け止められているのか、実のところ日々運営に携わっている私たち財団の職員にもよく分からないのです。公演ごとにお客様にアンケートをお願いしていますが、記入して頂くのは主に鑑賞者の年代や住所地、公演や施設、サービスの印象などです。来場者だけでなく、全市民、さらに兵庫県内の人たちに「あなたにとって文化ホールとは」と、あらためてお聞きしたことはないのです。

 そんな疑問にずばり答えてくれる画期的なインターネット調査が政策研究大学院大学(東京)の垣内恵美子先生、小川由美子先生によって行われました。計2000人弱(サンプル)に文化ホールを知っているか、利用の有無、行かない理由などを尋ねています。

 回答結果としてうれしいのは神戸市内での認知度が9割を超え、繰り返し利用している人も半数近く、神戸を除く県内でも認知度は7割強と全国の公立ホールでもトップクラスに位置していることです。さらに、行ったことがあると答えた700人弱を対象にした調査では過半数が文化ホールを「人や芸術と会える場所」「優れた芸術に触れる場所」とイメージしているとの回答でした。

 しかし、好意的な回答に喜んでばかりいては運営者としては失格です。「知っているが、行ったことはない」が神戸市内で27%、市外で44%。この人たちにどうすれば、来て頂けるようになるのか、真剣に知恵を絞らなければなりません。ほかにも改善すべき点、努力すべき点が調査結果から明らかになりました。

 このデータを基にした垣内先生らの研究論文がまもなく出来上がります。熟読して、さらに来場数も満足度もアップする神戸文化ホールを目指します。来年は開館50年です。

2022/6/22(水)

久元喜造神戸市長のブログに、文芸評論で知られる川本三郎さんの「『細雪』とその時代」を「面白く、二日で読み終えました」とありました。「細雪」はもちろん文豪谷崎潤一郎の大作ですが、久元市長は川本さんが「細雪」を通して昭和十年代の神戸・阪神間を瑞々しく描いているところにとくに感銘されたようです。

市長と似た年代に共通するのでしょうか、私も生まれる少し前の時代に引き寄せられている一人です。とりわけ国際港湾都市として日本の玄関口だった神戸が空襲で焼け野原になる前はどんなまちだったのか、あれこれ書物も読んできました。しかし、詳細な歴史書でも当時の臨場感までは味わえません。そんな折、題名に引かれて買った一冊の文庫本に長年の探し物を見つけたような感動を覚えたのです。

「神戸・続神戸」。戦況が傾き始めたころから、「トーアロード」のホテルを舞台に、多国籍の滞在者らが織り成す人間模様を新興俳句運動の旗手、西東三鬼がつづった自伝的作品です。戦後、俳句雑誌に連載されたもので、フィクションを含んでいるには違いありませんが、国際都市らしい神戸の雰囲気が鮮やかによみがえってきます。官憲からにらまれてはいても、ホテルの空気はいたって自由なのです。巻末の解説で作家の森見登美彦さんが「戦時下の神戸に、幻のように出現する『千一夜物語』」と記しています。神戸がそんなまちだったことを誇らしく思う半面、戦後生まれは千一夜物語のホテルには泊まれないことがちょっぴり寂しくもあります。

2022/6/14(火)

ずいぶん昔になりますが芸術活動を対象にした補助金申請の選考委員を務めたことがあります。そのときの第一印象は「申請するってなんと面倒くさい」でした。どんな事業をどんな趣旨でやろうとしているのか、芸術的価値や計画実現性、予算などを事細かく記述しなければならないのです。

元選考委員としてお許し頂きたいのですが、たくさんの候補の中から公平に選ばなければならないので、どれも必須項目なのです。趣旨説明では、選考委員を納得させるため文章表現にも手が抜けません。社会状況とも無縁であってはインパクトが弱まります。また、選ばれたら選ばれたで、予算に従い何を何に使ったか逐一領収書を添付して詳細に報告する義務があります。書類作成にたけている人なら容易かもしれませんが、たいがいはこの手の作業に不慣れな人たちが申請するのです。当時、審査にあたっていて申請者たちのため息が聞こえてくるようでした。

一昨年、コロナ禍の芸術活動を支援しようと当財団が神戸市とともに行った「頑張るアーティスト!チャレンジ事業」に応募した人たちも申請書作成に頭を悩ませたことでしょう。補助を受けた人にアンケートすると、案の定、国や自治体の補助制度をリサーチする段階で、どんな支援が受けられるのか、どう活用すればよいのかよく分からず、「申請をあきらめた」との声が寄せられました。

そんなアーティストたちに知ってほしいのが当財団の「こうべ文化芸術相談窓口」です。神戸市内在住、在勤、主に市内で活動している人たちを対象に企画実現ためのアドバイスをしています。書類作成は代行まではできませんが、どのような補助金が使えるかなど、どういったポイントを押さえればよいか答えてくれます。補助金申請の壁を乗り越えるだけでなく資金計画や活動拠点探しなど幅広く相談に応じています。内容によってはその道のエキスパートにもつなぎます。昨秋から始めていますが、これまで音楽や演劇、書画、造形など50件近く問い合わせがありました。

アーティストのみなさん、あきらめないでください。窓口はこの財団ホームページにありますよ。

2022/6/6(月)

 いま、公立ホールを運営する私たちにとって大きな比重を占めているミッションは社会包摂です。一般にはなじみの薄い言葉ですが、端的に言えば年齢差や障がいの有無にかかわらず演奏や演技を披露でき、または楽しんで鑑賞してもらえるホールを目指す、ということです。段差をなくすなど施設のバリアフリー化を連想しがちですが、実は従来のホール運営の概念を一新しなければならないほど奥の深いテーマなのです。

 「一般のコンクールとはまるで逆でした」。先月末に神戸文化ホールで開催された、障がいのあるアーティストのための「Para 国際音楽コンクール」の舞台進行を担当したスタッフからこんな報告を受けました。例えば演奏者に向ける照明は、従来は公平性から同じ照度を維持します。しかし、このコンクールでは光に抵抗感のある演奏者もおられるため、各挑戦者が不快感を持たない照度をその人ごとに調整しました。

「次の奏者にはこのような障がいがあります」と伝えられ、その人のベストコンディションとは何かを真剣に考えたと言います。付き添いのお母さんが合図しないと演奏が止まらない子どもや当日までどの指が動くか分からないというピアニストなど、その多様性に驚かされた一方、「どの演奏者もとてもレベルが高かった」と感動するスタッフはこのコンクールから多くのことを学んだようです。

 ホールはハンディーのない健常者だけが利用する場であっていいはずはありません。

「みんなちがって、みんないい」

金子みすゞの詩のように、誰もが使いやすく楽しんでもらえるホールをどう実現するか、既成概念にとらわれず考えていかねばと思います。

2022/6/1(水)

神戸市内の全市立小学校を訪問して子どもたちに生の音楽を経験してもらうアウトリーチ事業「小学生に向けた音楽の贈りもの」が今年度で4年目になります。当初は神戸市混声合唱団のメンバーが低学年、同室内管弦楽団のメンバーが高学年を担当してきましたが、2年前からは神戸音楽家協会にお願いして地元の演奏家にも加わってもらっています。

 コロナの影響で学校行事が中止や延期になる中、音楽担当の先生を中心に学校側の協力で感染防止に注意を払いながら、やっと低学年67校、高学年71校訪問しました。しかし、どちらもまだ半分に達しておらず、今年度はびっしりとスケジュールが入っています。

 体育館などに集まった子どもたちは、クラシックの名曲や人気アニメのテーマソングの演奏を聴くだけではありません。実際に楽器を鳴らしてみたり、合唱団員オリジナルの音楽劇に参加して踊るなど、耳だけでなく体全体で音楽の魅力を味わっています。子どもたちの目の輝きと楽しそうな反応が訪問した音楽家たちのやりがいでもあります。

 気長な話ですが、生の演奏を聴いてもらうことで、将来のクラシックファンを増やしたい、その中から音楽に携わる人が出てくればと願っています。でも、そこまで行かなくても、芸術に感動する心豊かな子どもが育ってくれればいいのです。

まだ来てないよという学校の子どもたち、必ず行きますから待っていてくださいね。 

2022/5/27(金)

 広島県福山市で開催された音楽祭に神戸市室内管弦楽団が参加し、最終日の22日、メイン会場のリーデンローズ大ホールでハイドンの交響曲などを演奏しました。同市は瀬戸内海の景勝地、鞆の浦で知られていますが、新幹線の駅を降りたら一目瞭然、バラのまちでもあるのです。空襲で焦土と化したまちをよみがえらせようと市民が1000本のバラを植えたのが始まりとのことです。今では100万本にまで増え、この時期いたるところで色とりどりの満開のバラが馥郁たる香りを漂わせています。

鞆の浦をはじめ今年で築城400年になる福山城など、観光資源は少なからずありますが、バラのまちはまさに市民が自発的に取り組んできたシビックプライドであり、今やシティープロモーションにもなっています。神戸でも植物園や公園などで季節の花を楽しむことはできますし、アジサイが市民の花にはなってはいますが、まちの代名詞とまでは言えません。福山市民のバラ愛に圧倒されるとともにうらやましくもあります。

それから、驚いたのは5日間の期間中、1万人以上の市民がさまざまなクラシック音楽を堪能したということです。私たちの公演にも1時間以上前からホール前に長い行列ができました。神戸市の3分の1の人口ながら市民に音楽文化が根付き花開いている。主催者側の地道な努力に学ぶべき点が多いことを痛感した音楽祭でもありました。

2022/5/19(木)

 神戸在住のイタリア人ヴァイオリニスト、マウロ・イウラートさんが六甲山上に野外ステージをつくり、先日、オープニングセレモニーがありました。当日は爽やかな快晴で野鳥のさえずりと協演するように六角形のステージ上で奏でられたマウロさんのヴァイオリンにうっとりしました。

 その式典のお祝いのスピーチで触れたのですが、これからの時期、六甲山や市内のあちこちで私たちの目を楽しませてくれるのがアジサイです。1970年に市民アンケートで神戸市民の花になっており、神戸文化ホールの正面壁面のモザイク画もアジサイです。しかし、この花、全国各地で咲いており、神戸原産とか発祥といったいわれはありません。では、どうして神戸市民の花となったのでしょう。思い当たるのはやはり六甲山に咲き乱れるアジサイからではないでしょうか。

 しかし、そこでまた疑問が頭に浮かんできます。今では緑豊かな六甲山ですが明治期は、はげ山でした。植物学者もあきれており、写真も残っています。地道な植林活動で現在の姿になったのですが、アジサイがなぜ多いのか。その理由を記した文献にまだお目にかかっていません。

 ずいぶん昔になりますが、興味深い話がひとつ。六甲山をよく知るお年寄りから聞いたのですが、阪急電車の創設者小林一三が大量のアジサイをトラックで運ばせたというのです。六甲山をこよなく愛した一三が地元の人たちに、この山に似合う花は何かと聞いてやったとのこと。ロマンあふれるエピソードなのですが、そんな記録を知っているという方がおられましたらぜひ教えてください。

2022/5/12(木)

 ウクライナとロシアから帰国せざるを得なかった日本人ダンサーたちにステージで踊ってもらい、収益金を戦時下のウクライナの劇場に届けようというチャリティー公演が神戸文化ホール(中ホール)で715日に開催されます。神戸市内のバレエ団体が帰国ダンサーたちの窮状を知って立ち上がったのですが、当財団も趣旨に賛同して、神戸市混声合唱団のメンバーがウクライナの民謡などを歌おうと企画中です。

 先日、主催者と帰国ダンサー5人が神戸市役所の記者クラブでチャリティー公演について会見しました。ウクライナから避難してきたバレリーナたちは、まさかと思っていたロシア軍の侵攻で慌てて避難したが、当たり前だった練習や上演の機会を失い途方に暮れていると、苦しい実情を切々と訴えていました。

共に並んだロシアからの帰国ダンサーたちもつらい思いをしています。その1人はクレジットカードが使えなくなり、SNSも見られず、両親の説得でバレエ団を辞めたと言います。しばらくヨーロッパでダンスの仕事を探したものの見つからず断念して帰国したとのこと。その悔しさをこらえ、所属していたバレエ団のウクライナ人の指導者や団員のことを案じていました。

遠い彼方での戦争がこんな身近なところにも悲劇を生んでいる。国家的暴力の前に立ちすくむ若い才能を目前にして戦争の罪をつくづく思い知らされる会見でした。

義援金ともなるチケットは6月1日から神戸文化ホールのプレイガイドで発売されます。

2022/5/2(月)

 大型連休初日の429日、面白いコンサートが神戸文化ホールでありました。「合唱コンクール課題曲コンサート」。神戸市混声合唱団が今年度の全日本合唱コンクールとNHK全国学校コンクールの課題曲を披露するというプログラムです。全国の学校やアマチュア合唱団が頂点を目指す二大コンクールですから、当日、詰めかけた聴衆の中には、合唱団員や指導者らしき人たちが目立ちました。私の隣に座っていた男性は一曲ごとに身を乗り出して小さく手を振っていました。きっと頭の中で指揮をしていたのでしょうね。

 神戸市混声の音楽監督、佐藤正浩さんの企画、指揮によるプログラムで、昨年度はコロナ禍でやむを得ずYouTubeでオンライン配信しました。しかし、多くの合唱団が半年間練習に打ち込む曲を、プロの合唱団が先行して歌うのですから反響は大きく、今回、初の舞台披露となったわけです。この公演、内実は冷や汗もので年度初めとあって課題曲の楽譜が手に入ったのが4月になってから。本番までの合同練習が2回だけという即席コンサートでしたが、そこはさすがプロの声楽家たちでした。

佐藤さんいわく「模範演奏ではありません」とのことですが、NHKのコンクール課題曲はまったくの新曲ですから、隣のお客さんのように“耳ダンボ”になりますよね。ちなみに私は過去の課題曲を特集した後半のプログラムの中でアンジェラ・アキさんの「手紙~ 拝啓十五の君へ~」に胸が熱くなりました。

今回のコンサート、後日YouTubeで公開されるそうです。また、佐藤さんは来年も趣向を変えながら続けていくと言っておられます。年度初めの恒例事業になるのではと期待しています。

2022/4/27(水)

 新緑のすがすがしい季節到来ですが、今年はいま一つ気分が晴れません。ロシア軍のウクライナ侵攻が始まってから2カ月を過ぎても停戦の兆しすら見えず、そこへ知床半島の観光船事故が重なり、命が失われていく現実に心は萎えるばかりです。きっとみなさんも同じ心境ではないでしょうか。そんな中、本棚から取り出したのは、須賀敦子の旅にまつわるエッセイ集でした。きっと癒しを求める気持ちが「こころの旅」というタイトルにいざなわれたのでしょう。

 須賀敦子といえばイタリア文学の翻訳家で夏目漱石や谷崎潤一郎の作品をイタリア語に訳して日本文学をヨーロッパに紹介した功労者です。また、名エッセイストとしても健筆を振るいましたが1998年に69歳で他界しています。

彼女の生い立ちや青春時代を振り返る「芦屋のころ」などには、芦屋、西宮、神戸の阪急沿線が登場し、戦前とはいえ阪神間の光景が目に浮かび親近感が湧きます。中でも記憶に残ったのが「塩一トンの読書」という短いエッセイです。結婚間もないころ「ひとりの人を理解するまでには、すくなくも、一トンの塩をいっしょに舐めなければだめなのよ」とイタリア人の姑に諭されたという彼女は、古典文学も塩一トンを舐めつくすほど読み込まなければ真に理解できないと語っています。

それは、私たちが携わる音楽や他の文化芸術も同じことでしょう。読み終えて、16歳で終戦を迎え単身ヨーロッパに渡り、最愛の夫を早く亡くしても、孤独の中でペンを執り続けた一人の日本人女性に「しっかりしなさい」と背中をたたかれた気分になりました。

2022/4/19(火)

 当財団の職員が大阪大学の社会人講座の修了証をもらいました。アートに関連する人材育成プログラムということで、弥生時代の土の笛を実際に作ってみるなど興味が湧くカリキュラムですが、中でもまちなかに作品を展示するパブリックアートについて考察するプロジェクトは極めて今日的課題と言えます。

 対象となったのはJR新大阪駅前の設置場所が旧国鉄(JR)から大阪市に変更になったことで管理者がいないモニュメント「タイムストーンズ400」。受講生たちは前衛的な創作活動で海外でも名高い具体美術のメンバーだった作者の今井祝雄さんを訪ね、作り手としての心境を聞き、大阪や神戸の屋外作品を見て回り、シンポジウムを開いています。

 パブリックアートは、その場所のシンボルとして親しまれている作品がある一方、作者が分からない、制作の意図が不明な作品も少なくありません。中には腐食したもの、木の茂みに隠れてしまっているものもあり、プロジェクトの記録集には「私が注目しただけでも価値があったのか」との受講生の嘆きの声も。神戸市はかつて野外彫刻展を開催し、まちなかに積極的に作品を展示してきただけに、パブリックアートのその後について真剣に向き合う必要があるでしょう。みなさんの近くにどんな作品があり、いまどのような状態になっているか、見つめ直してみませんか。

2022/4/12(火)

横浜の女性声楽家3人がウクライナの人々を励まそうと、ほぼぶっつけ本番、ウクライナ国歌の歌詞をカタカナで覚え歌っているニュースがありましたね。YouTubeで聴いた同国の人たちから「感動した」と反響があったとのことです。もちろん、ネイティブの人からすればおかしな発音があったに違いありません。それでも、否応なく祖国から逃れなくてはならない人たち、祖国を守るために戦わねばならない人たちには、どんな名演奏より心に響いたことでしょう。

一つの歌が人々に勇気を与え奮い立たせる。誰もが思い浮かべるのは19世紀末、シベリウスが作曲した「フィンランディア」です。帝政ロシアの圧政に苦しめられていたフィンランド国民の愛国心を鼓舞し、ロシアが演奏禁止にしたことはあまりに有名です。それから120年を経て、ウクライナ国歌「ウクライナは滅びず」が、また同じ役割を果たしています。日々、破壊されたまちの映像が流れ犠牲者の数が増えていく中、日本にいる私たちに何ができるのか。音楽家としてカタカナでのウクライナ国歌斉唱に踏み切った彼女たちに賛同と感謝のエールを送りたいと思います。

2022/4/4(月)

神戸アートビレッジセンターのKAVCシネマが年度末の3月末で終了しました。開館26年になる同センターの魅力をさらに高めようと、子どもたちがアートに親しめるコーナーを新設するなど、今年秋から神戸市が施設改修工事に入るためです。開設当時と異なり、元町映画館や神戸映画資料館が誕生し、商業ベースに乗りにくいために封切り映画館では見られなかった作品も見られるようになったこともあり、施設のスペース上やむを得ない決定となりました。

しかし、KAVCシネマに映画の面白さを教えてもらった一人としては、やはり寂しいですね。さまざまなジャンルの作品と出合ってきましたが、忘れられない一つが「日本喜劇映画特集」です。戦後の日本人を大いに笑わせてくれた今は亡き喜劇俳優たちが昭和の庶民の暮らしとともにスクリーンによみがえり、あまりの懐かしさに涙ぐむ人もおられました。ゲストとしてトークショーに登場した大村崑さんはまさに新開地近辺の生まれ育ち。子ども時代、新開地の劇場が遊び場で、子役で飛び入り出演したという秘話まで聞けました。

終盤で人気を博した「三船敏郎特集」は配給条件が難しく、なかなか他館が手を出せなかったところ担当者が熱心に交渉して上映に漕ぎ着けました。地味だが余韻が残る作品が多いのもKAVCシネマの特色だったように思います。

長年ご愛顧頂いた映画ファンに厚く感謝申し上げるとともに、これからも進化する神戸アートビレッジセンターにどうぞご期待ください。

2022/3/25(金)

 まもなく4月、とりわけ新入生や新入社員にとっては、新たな生活に心弾む季節ですが、今年は霧が立ち込めたようにすっきりしません。3年目に突入した新型コロナは感染者の減少が鈍く、まん延防止等重点措置が解除されてもマスク着用やアルコール消毒など施設利用は規制がかかったままです。そこへロシア軍のウクライナ侵攻です。連日のニュースで悲惨な光景が映し出され、日々犠牲になっている一般市民へ哀悼の念を禁じえません。

完全に廃墟と化したまちを見て思い出すのは被災者として神戸大空襲を克明に描いた長田区出身の舞台美術家、妹尾河童さんの自伝的小説「少年H」です。焼夷弾による火の海の中を母親と奇跡的に逃げ延びた場面は鬼気迫るものがあります。ウクライナの人たちも同じく生死の境に立たされていると思うと心が痛みます。

9年前、「少年H」の映画化の際、河童さんに頼まれて新聞社から借りた1枚の航空写真は今も忘れることができません。それは北野町にぽつんと建つ白い回教寺院以外、すべて灰塵と化した神戸市全景です。これが77年後のウクライナの現実なのです。

被災者の心を癒す文化芸術の出番がいつめぐってくるのか、一刻も早く凶暴な戦の嵐が去り、穏やかな平和が訪れることを遠い神戸から願わずにはいられません。

2022/3/10(木)

 予兆はあったものの、まさかのロシア軍によるウクライナ侵攻で、東欧から遠く離れた日本でも陰鬱な空気が垂れ込めています。冷戦終結後、曲がりなりにも国家間の大きな戦争がなかったヨーロッパで、目を覆いたくなるような破壊と幼い子どもまで巻き込んだ犠牲が日々怒涛のように報じられています。ミサイル攻撃や砲火にさらされているウクライナの人々に何ができるか自らに問うていますが、残念ながら、数百万人単位になろうとする難民を寄付などでささやかに支援するぐらいしか思いつきません。

 世界に広がるプーチン大統領やロシア軍への憤りは当然のことです。ですが一方で言語道断な自国の非道に心痛めているロシアの人々も数多くいるということも、拘束覚悟で繰り広げられている国内の反戦デモ等を見れば明らかです。私たちは感情に任せて国家と個人を同一視しがちです。文化芸術分野でも、責任のないロシア人アーティストやロシア芸術に対する敵視が起こりかねません。しかし、このような行いは過去の戦争・紛争においても繰り返され、大きな傷跡を残す過ちであったことを歴史は教えてくれています。怒りを向ける相手を間違えないでおきましょう。そして、一日も早くウクライナに平和が戻ることを祈りたいと思います。

2022/3/4(金)

 3月に入って日ごとに春めいてきました。暦では、「雨水」の次の「啓蟄(けいちつ)」ですね。寒さが一段落して土の中から虫が出てくる季節です。野鳥が飛来し始めるのもこの時期で、我が家の周辺にはウグイスもやってきます。まだ、一人前ではなく上手に「ホーホケキョ」と鳴けず「ホホケキョ」と舌足らずに鳴くのも愛嬌があります。

鳥の鳴き声と言えば、先日の神戸国際フルートコンクール関連講座「クラシック音楽なんかこわくない」で、驚くべき話を聴きました。交響曲の出だしとして、超有名なベートーヴェンの第5番「運命」の「ジャジャジャジャーン」がなんと鳥の鳴き声かもしれないと言うのです。講師の音楽ジャーナリスト飯尾洋一さんによると、キアオジという野鳥の鳴き声をモチーフにしているのでは、とのことで、YouTubeで見るとキアオジがまさに第5番の出だしをさえずっているのです。

「運命の扉をたたく」と固く信じていた私としては、今でも頭の中で運命の扉と鳥のさえずりが渦を巻いています。ともあれ器楽演奏は言葉がないだけに、いろいろな解釈が成り立つという意味でも魅力があります。ひょっとすると、後世の人が表題を付けた他の名曲にも、こんな信じられないような新説が登場するかもしれません。神戸市室内管弦楽団によるベートーヴェン企画のマスコット「ジャジャ」と「ジャジャーン」も自分たちのルーツがキアオジの鳴き声だと知ったらびっくり仰天するでしょうね。

2022/2/21(月)

暦では立春の次に春の訪れを告げる二十四節季の一つが「雨水」です。今年は219日ごろから。雪が雨に変わるころなのですが、「春は名のみ」で北海道や北陸ばかりか兵庫県でも日本海側は記録的な大雪に見舞われています。雪の少ない神戸は雪かきの必要もなく、ニュースを見ながら豪雪地帯の人たちに申し訳なく思っています。それでも吹き付ける風は凍るように冷たく、春を待つ気持ちに変わりはありません。

底冷えする夜は外に出る気になりませんが、寒風に掃き清められた夜空は空気が澄み切って星がきらめいています。思い切って庭やベランダに出てみてください。私でも真ん中に3つの星が並んだオリオン座なら見当がつきます。

思い返せば神戸市混声合唱団のメンバーがコロナ禍で平穏な生活を奪われた人々を癒し励まそうとオンライン上で「星に願いを」を歌ってくれてからもう2年になろうとしています。残念ながら、いまだに、いつ終息するのか先が見通せませんが、星降る夜空を見上げながら、合唱団と同じように「輝く星に心の夢を、祈ればいつかかなうでしょう」と願うばかりです。

2022/2/10(金)

不覚にもコロナに感染してしまいました。財団の職員やお客様に耳にタコができるほどマスク着用や手洗いを呼び掛けてきた当人がこのありさまでお恥ずかしい限りです。前回の第5波までの経験からしてオミクロン株の感染力は従来株とは比べ物になりません。発症前数日間の行動を真剣に振り返ってみたのですが、自宅外でマスクを外して会話や会食をした覚えはなく、どこでうつったのか全く見当が付きません。その一方、2人暮らしの家庭では妻と居住範囲を1階と2階に分けるなど、保健所やお医者さんの言いつけを守りましたが抵抗むなしく妻に感染させてしまいました。

 2人とも重症化せず10日間の自宅療養で済みましたが、買い物にも出られない隔離生活は食料にも事欠きました。また、周りには長期入院した人もおり軽症で済んだのは幸運だったというしかありません。

 そんな私が言っても説得力はありませんが、感染防止に一段と力を入れて取り組んでいきます。神戸文化ホールなど各施設では当面さまざまな規制が続きますが、「感染者を出さない」ために皆様のご協力をお願い申し上げます。

2022/1/11(火)

新春早々、神戸文化ホールで開催した井上和世プロデュース、佐渡裕指揮、オペラde神戸「椿姫」は7、8日両日とも2000席余りの大ホールが満席となり、コロナ禍の中で、訪れた人々に久しぶりに文化の力を実感して頂けたと思います。昨年秋ごろには空席がほとんどなくなり、チケットを購入できなかったオペラファンにはたいへんご迷惑をお掛けしました。

さて、当日、プログラムを見て驚いたのは関係者の数の多さです。もちろん歌手や合唱団、オーケストラ、バレエ団など、通常のコンサートに比べキャストの人数は比べものになりません。目を見張ったのは舞台には登場しないスタッフの人数です。スポットライトは浴びないけれど、さまざまな役割のプロたちがオペラを作り上げているのだなとあらためて思い知りました。

どれもこれも重要なのですが、印象的だったのは舞台の真ん中にそびえ立つ一本の柱です。全3幕ともこの柱が登場し、場面を巧みに切り分けるばかりでなく椿姫の運命をも象徴しているようでした。担当した増田寿子さんの創造力のたまものです。

随分昔になりますが「NINAGAWAマクベス」を見た時びっくりしたのが、舞台全体が巨大な仏壇だったことです。舞台美術を担当した神戸出身で「少年H」の作家、妹尾河童さんは蜷川さんに舞台を仏壇にしてくれと依頼され、日本中の仏壇を見て回ったと話していました。

オペラなど舞台芸術は、お節料理のようにさまざまな魅力がぎっしり詰まっています。これからもみなさんの記憶に残るステージを創造していくことを新年の抱負としたいと思います。

つぶやきはじめました 2021/11/11(木)

当財団のホームページをご覧いただいてありがとうございます。さらに私のつぶやきにまでお付き合いくださり感謝申し上げます。

さて、みなさんがこのホームページを検索されたのは、神戸文化ホールやアートビレッジセンター、各区の文化センターでの催しなどを調べようとされたからではないでしょうか。みなさんにとって文化ホールや文化センターはなじみのある施設だと思います。しかし公益財団法人神戸市民文化振興財団という長ったらしい名前の方はご存じなかったかもしれません。来年で創立40年になる神戸市の外郭団体なのですが知名度の方は正直さっぱりです。とはいっても覚えてもらわなくても結構です。

たとえて言うなら私たちはテーマパークの事務所のような存在です。みなさんが競って足を運ぶのはジェットコースターのようなわくわくする遊具であって、事務所には誰も関心を持ちませんよね。しかし、みなさんが思う存分楽しめるように事務所には専門のスタッフが詰めています。また、遊具のメンテナンスや施設全体の経理のための担当者もいます。言わば私たちはテーマパークならぬホールや舞台を支える黒子集団なのです。文化芸術というと堅苦しく聞こえますが、ぜんぜんそんなことはありません。ディズニーランドやUSJに遊びに行くように各施設に気軽にお越しください。職員一同心からお待ちしております。